生成系LLMの推論と思考プロセスの理解

生成系LLMにおけるreasoning(推論)とthinking(思考)を理解するために、10時間以内で完結するコアな概念の整理とハンズオン実践内容を調査する。結果は日本語でまとめる。

生成系LLMの推論と思考プロセスを理解する10時間学習計画

はじめに

近年の大規模言語モデル(LLM)は人間のような推論(reasoning)や思考(thinking)プロセスをある程度模倣できるようになりつつあります。本計画では、10時間以内でこれらの概念を学び、実際にコーディングによるハンズオンで体験することを目指します。まず、LLMが思考・推論を行う際の重要なコアコンセプトを整理し、その後にPython(Google Colab想定)による実験手順を提示します。各セクションでは初心者にもわかりやすいよう具体例や図表を用いて解説し、該当箇所には参考資料への引用も示しています。では始めましょう。

LLMの思考・推論に関する重要なコアコンセプト

チェーン・オブ・ソート(Chain-of-Thought)プロンプティング

チェーン・オブ・ソート(CoT、思考の連鎖)プロンプティングとは、複雑な課題を一連の論理ステップに分解し、LLMに人間のような段階的推論をさせる手法ですwww.ibm.com。通常、質問に対し即座に最終回答のみを出力するのではなく、「ステップ・バイ・ステップで考えてみよう(Let’s think step by step)」といった指示を与え、中間的な思考過程(理由づけや計算手順)を逐次生成させます。こうすることでモデルは論理的な一貫性を持った思考チェーンを構築し、複雑な問題も体系的に解決しやすくなりますwww.ibm.com。図: スタンダードなプロンプト vs. Chain-of-Thoughtプロンプトの比較(左: 通常の一発回答プロンプト、右: 思考過程を促すCoTプロンプト)。左側ではモデル入力に対し即座に「A: The answer is 27」と誤答していますが、右側ではモデルに途中の推論プロセス(青字部分)を話させることで、最終的に正しい回答9(緑字部分)に到達していますwww.datacamp.com。このように思考の連鎖を明示的に生成させることでモデルの回答精度が向上することが多くの研究で報告されていますwww.datacamp.com。例えばGoogleの研究者らは2022年の論文でCoTプロンプトを導入し、モデルに中間推論ステップを踏ませることで算数や常識推論などの複雑なタスク性能が大幅に向上することを示しましたwww.datacamp.com。初心者向けに直感的な例を挙げれば、モデルに「空は何色か?」と聞けば通常は「空は青いです」と即答します。しかし「空が青い理由をステップバイステップで説明してください」とCoTプロンプトを与えると、モデルはまず「青とは何か(例: 原色の一つ)」を定義し、次に「大気による他の色の吸収によって空が青く見える」と推論し、最後にそれらをまとめて回答する、といった具合に論理的な思考過程を経た説明を行いますwww.ibm.com。このようにCoTプロンプトはモデルの回答をただ得るだけでなく、その背後の推論を引き出すため、解答過程の透明性も向上します。

ReAct(推論+行動)フレームワーク

ReActは「Reasoning(推論)」と「Acting(行動)」を組み合わせたLLMのプロンプト手法で、モデルが思考しながら必要に応じてツールを使うというエージェント的挙動を実現しますsun-asterisk.com。通常のプロンプトが単に「質問→回答」で完結するのに対し、ReActでは推論の過程と具体的な行動指示を交互に含む点が特徴ですsun-asterisk.comsun-asterisk.com。ReActプロンプトでは典型的に以下のようなステップを踏みますsun-asterisk.comsun-asterisk.com:

  • 観察 (Observation): 与えられた状況や質問の情報をモデルがまず整理します。sun-asterisk.com
  • 推論 (Reasoning): 観察した内容に基づき「次に何をすべきか」をモデルが考え、解決策を計画します。sun-asterisk.com
  • 行動 (Action): 推論の結果、必要ならモデルが外部のツールやデータにアクセスする行動を起こします(例えば電卓を使う、ウェブ検索をするなど)。sun-asterisk.com
  • 結果の観察: 行動によって得られた結果を再度観察し、それを踏まえて次の推論に活かします。sun-asterisk.com(これを必要に応じて繰り返し、最終回答に至ります) 図: ReActによる推論+行動の概念図(左:推論のみの従来手法〈Chain-of-Thought〉、中央:行動のみの手法〈ツール使用のみ:例 WebGPT〉、右:ReAct)。右図のReActでは、LLM(大規模言語モデル)が内部で思考(Reasoning Traces)しつつ外部環境(Env)に対して行動(Actions)を起こし、その観察結果(Observations)をまた思考にフィードバックするループになっているのが分かります【3†】。このように推論と行動をインタリーブ(交互作用)させることで、モデルは自分の内部知識だけに頼らず不足している情報を環境から取得し、推論の誤りも行動によって修正しながらタスクを解決できますreact-lm.github.ioreact-lm.github.io。実際、質問応答タスク(HotpotQAなど)では内部推論のみのチェーン・オブ・ソート手法が事実誤認に陥るケースでも、ReActでは外部から事実情報を取得して正答率を改善できたと報告されていますreact-lm.github.ioreact-lm.github.io。具体例で考えてみましょう。例えば「ある店で製品を100ドルで販売しています。20%割引した後にさらに10%値上げしたら最終価格はいくらになるか?」という問題があるとしますsun-asterisk.com。この問題をReActエージェントで解くと以下のようなステップになりますsun-asterisk.comsun-asterisk.com:
  • 観察: 質問文から元の価格100ドル、割引率20%、値上げ率10%という情報を読み取る。
  • 推論: 「まず割引後の価格を計算し、その結果から値上げ後の価格を計算しよう」と解決方針を立てる。
  • 行動: モデルは電卓ツールを呼び出し、まず100の20%引きを計算し(100×(1-0.2)=80)、次にその結果80の10%上乗せを計算する(80×(1+0.1)=88)。
  • 観察: ツールから得られた計算結果(88ドル)を確認する。
  • 結論: 最終結果として「価格は88ドルです」と回答するsun-asterisk.comsun-asterisk.com。 このようにReActでは思考過程を明示しつつ適切なツール使用による行動を挟むため、モデルの判断根拠を人間が追跡しやすく(思考の可視化)sun-asterisk.com、外部リソースの活用によって柔軟かつ複雑なタスクにも対応でき、ステップごとに検証することで誤りも減らせるという利点がありますsun-asterisk.com。近年、OpenAIのChatGPTプラグインやLangChainといったフレームワークで、このReActの考え方を用いたLLMエージェントが実装されています。次のハンズオンでは実際に簡単なReActエージェントを動かしてみます。

ツールの活用による拡張 (LLM Tool Use)

上記ReActの例にもある通り、LLMは内部知識だけでなく電卓や検索エンジンなどの外部ツールを使うことで能力を拡張できます。ツールの使用は、LLM単体では苦手なタスク(正確な計算、最新情報の取得、データベース検索など)を補完する強力な手段です。huggingface.coで指摘されているように、計算ミスや知識カバー範囲の限界といった課題はツール利用によって克服できますhuggingface.co。例えばGPT-4には関数呼び出し機能があり、日付計算や情報検索といったプラグイン(ツール)を使って回答の正確性を上げることが可能です。また、Meta社の研究「Toolformer」では、モデル自身を微調整して対話中で適切なAPIを自発的に呼び出すことで精度向上を図る手法も提案されています。ツール使用自体の概念はシンプルで、「モデルにいくつかの**ツール(呼び出せる関数)**を渡し、必要に応じそれを呼び出して質問への回答に役立てさせる」だけですhuggingface.co。例えば計算用の電卓ツールを与えれば、モデルは内部の不正確な暗算に頼らず計算結果を得ることができますhuggingface.co。ただ、実際に実装しようとすると「ツールをどう渡すか」「ツールを呼ぶフォーマットをモデルにどう教えるか」「ツールの出力をモデルの会話にどう組み込むか」など課題も多く、各モデルやフレームワークで仕様がまちまちでしたhuggingface.cohuggingface.co。幸い2024年現在、Hugging FaceのTransformersライブラリでも複数のモデル系列で統一的にツールを扱えるAPIが整備されつつありhuggingface.cohuggingface.co、オープンソースLLMでもLangChainを使って手軽にツール対応エージェントを構築できるようになっていますhuggingface.cohuggingface.co。まとめると、**LLMに外部ツールを使わせることは「思考力を補う知恵」**と言えます。モデル単体では不得意な処理も、適切なツールと連携することでより正確かつ信頼性の高い回答が得られます。この学習計画の後半で、ツール使用の実例として電卓機能付きのエージェントを動かしてみましょう。

メタ認知プロンプティング(自己認識・自己評価プロンプト)

LLMの「思考らしさ」をさらに高める興味深い手法に、メタ認知プロンプティング(Metacognitive Prompting)があります。これはモデルに自分の回答や考えを振り返らせ、自己評価・自己修正を促すプロンプト設計です。「メタ認知」とは平たく言えば「自分の考え方について考えること」であり、人間が問題解決時に行う内省(なぜそう考えたのか、この結論は正しいか?と自問するプロセス)に相当しますnote.com。モデルにこの内省的推論を模倣させることで、回答の理解度や正確性を向上させようという狙いですnote.com。具体的には、メタ認知プロンプトではモデルに以下のようなステップを踏ませますnote.comnote.com:

  • 初期回答の生成: まず普通に質問に対する回答を出力させる。
  • 深い内省: 続いて「なぜその回答に至ったのか?根拠は何か?」とモデル自身に考えさせる。note.com
  • 回答の再評価: 最初の回答が本当に正しいかもう一度検証させ、不十分なら訂正や詳細化を行わせるnote.com
  • 自己評価: 最終的に自分の回答にどれほど自信があるか評価させる。note.com 例えば、モデルがあるパズルに対し初回は間違った答えを出したとします。そこで「本当にそれで合っている?理由を詳しく考えてみて」と促すと、モデルは自ら推論過程を再チェックし、矛盾や誤りに気付けば回答を修正するかもしれません。実験では、このような自己反省の一手間を加えるだけで回答精度が上がるケースが報告されていますnote.com。メタ認知プロンプトはChain-of-Thoughtと組み合わせることもでき、まずCoTで推論させた後に「その推論に誤りはないか?他に考えるべき観点は?」と問いかけてさらに深く検討させる、といった使い方も可能です。要するに、モデルに**「自分で自分の考えをチェックさせる」**ことで、より信頼性の高い思考プロセスを引き出すテクニックと言えるでしょう。以上、LLMの思考・推論に関する4つの主要コンセプト(CoTプロンプティング、ReAct、ツール使用、メタ認知プロンプティング)を概観しました。次章では、これらを実際に体験するためのハンズオン手順を示します。コードを動かしながら概念を確認することで理解が深まるはずです。

ハンズオン:推論パターンの実践(Google Colab)

ここからは実装編です。 概要を把握したら、実際にColab上でLLMの推論プロセスを試してみましょう。所要時間も考慮し、合計10時間以内で完了できる範囲に絞った3つの実験を用意しました。各実験には推定所要時間を記載しています。手元にOpenAI APIキーがある場合はGPT-3.5/GPT-4等を使えますが、無くてもHugging Faceのオープンモデルで代用可能です(※その場合一部結果が異なる可能性があります)。

準備: Colab環境セットアップ (目安: 0.5時間)

  • Colabの用意: GoogleアカウントでColabにアクセスし、新しいノートブックを作成します(無料枠で問題ありません)。
  • ライブラリのインストール: 以下のコードをColabの最初のセルにコピーし、実行してください(⚠️初回のみ数分かかります)。

python

!pip install transformers openai langchain

  • transformers: Hugging FaceのTransformersライブラリ。オープンソースモデルを扱うのに使用します。

  • openai: OpenAIのAPIライブラリ。GPT-3/4を使う場合に必要です。

  • langchain: LangChainフレームワーク。エージェント(ReAct実装)で使用します。

  • APIキー設定(任意): OpenAIのAPIキーをお持ちの場合は、以下のようにキーを環境変数に設定します(OpenAIモデルを使う実験2で必要):

python

import os os.environ["OPENAI_API_KEY"] = "sk-...(あなたのAPIキー)..."

OpenAIキーが無い場合、実験2では代わりにオープンモデルを使用する設定を案内しますので飛ばして構いません。 以上で準備完了です。それでは各実験に進みましょう。

実験1: チェーン・オブ・ソートで数学問題を解く (目安: 2時間)

目的: Chain-of-Thoughtプロンプティングの効果を体験します。モデルに対して通常の質問と「ステップバイステップで考える」質問を投げかけ、回答内容の違いを観察します。手順:

  • モデルの準備: 小~中規模のオープンモデルを使用します(ここでは例としてHugging Faceの事前学習済みモデル "google/flan-t5-base" を利用します)。以下のコードを実行して、テキスト生成パイプラインを準備します(Transformerモデルのダウンロードに数十秒〜1分程度かかります)。

python

from transformers import pipeline generator = pipeline("text2text-generation", model="google/flan-t5-base", tokenizer="google/flan-t5-base")

※より高性能なモデル(例: google/flan-t5-largegoogle/flan-t5-xl)も使用可能ですが、サイズが大きいためColabのメモリに注意してください。小規模モデルでは推論能力が限られる点も踏まえつつ進めます。

  • テストする問題の用意: CoTの恩恵が分かりやすいよう、複数ステップの計算問題を用意します。ここでは先ほど例に出たリンゴの個数問題を使ってみましょう。

  • 問題文: 「あるカフェテリアにリンゴが23個あります。20個をランチに使い、さらに6個買い足しました。最終的にリンゴは何個になったでしょうか?」
    (答えは 9個 になるはずです。途中計算: 23 - 20 + 6 = 9)

  • 通常プロンプトで質問: まずはチェーン・オブ・ソートを使わずにモデルに質問し、その回答を見ます。

python

question = "Q: カフェテリアにリンゴが23個あります。20個を使ってランチを作り、6個買い足しました。最終的にリンゴは何個ありますか?nA: " result = generator(question, max_length=50) print(result[0]["generated_text"])

このプロンプトはシンプルにQ&A形式で聞いています。モデルの出力(generated_text)として予想される回答例:

最終的なリンゴの数は26個です。

上記のように誤った答えを返す可能性があります(flan-t5-baseの場合、計算を間違えて「26個」や「27個」といった誤答をすることがあります)。このように通常プロンプトでは、モデルが複数ステップの問題を一度に処理しきれず、途中の減算を忘れてしまうケースが見られます。

  • CoTプロンプトで質問: 次に同じ問題に対し、思考過程を促す指示を加えて質問してみます。プロンプトの末尾に「考えながら解答してください。」など日本語で付け加えてもよいですが、ここでは効果が知られている定型句「Let's think step by step.」(英語)を使ってみます。

python

cot_prompt = "Q: カフェテリアにリンゴが23個あります。20個を使ってランチを作り、6個買い足しました。最終的にリンゴは何個ありますか?nLet's think step by step.nA: " result = generator(cot_prompt, max_length=100) print(result[0]["generated_text"])

出力例:

まず初めに、23個のリンゴがあります。 20個のリンゴがランチに使われました。23 - 20 = 3。 その後、6個のリンゴが新たに追加されました。3 + 6 = 9。 最終的にリンゴは9個になります。

このように、途中経過をモデルが説明しながら計算し、最終的に正しい答え9を導いていることがわかります。チェーン・オブ・ソートプロンプトによってモデルが問題を分解し順序立てて考えるよう誘導された結果ですwww.datacamp.comwww.ibm.com

  • 結果の考察: CoTあり/なしでのモデルの応答を比較し、違いを確認しましょう。ポイント:
  • 通常プロンプトではモデルが誤答しやすい複雑な問題でも、CoTプロンプトを与えると途中の推論(計算手順)を明示的に辿ることで正答率が上がることが見て取れます。
  • モデルが出力したステップ記述から、どのように問題を解いたか人間が追跡できるメリットもあります(今回は減算→加算の順で処理しているのがわかる)。
  • なお、小規模モデルではCoTを使っても性能限界から誤答する場合があります。その際も思考過程を観察することでどこで間違えたか分析しやすくなるという利点があります。 実験1では、チェーン・オブ・ソートによりモデルの推論プロセスと回答精度がどう変化するかを確認しました。続いて、モデルが外部ツールを使いこなすエージェント的振る舞いを試してみましょう。

実験2: LangChainを用いた簡単なReActエージェント (目安: 4時間)

目的: ReActフレームワークに沿ったLLMエージェントがツールを使って問題解決する流れを実装し、内部の思考と行動のサイクルを観察します。ここではLangChainを用いて、LLMが電卓ツールを呼び出せるエージェントを構築します。手順:

  • LangChainエージェントのセットアップ: LangChainには便利なツール類が用意されています。今回は計算に特化したツールllm-mathを使います。このツールは数式をPythonで評価して結果を返す電卓のような機能です。以下のコードをColabにコピーして実行してください(OpenAIのモデルを利用します)。:

python

from langchain.llms import OpenAI from langchain.agents import load_tools, initialize_agent, AgentType # OpenAIのLLM(GPT-3.5)を温度0で用意 llm = OpenAI(model_name="gpt-3.5-turbo", temperature=0) # 電卓ツールをロード(LLMのインスタンスを渡す必要があります) tools = load_tools(["llm-math"], llm=llm) # ReAct (Zero-shot) エージェントを初期化 agent = initialize_agent(tools, llm, agent=AgentType.ZERO_SHOT_REACT_DESCRIPTION, verbose=True)

上記では、OpenAIのChatGPT API(gpt-3.5-turbo)をLLMとして指定し、ZERO_SHOT_REACT_DESCRIPTIONというエージェントタイプで初期化しています。このエージェントは事前に組み込まれたReAct用プロンプト(数ショットの例示含む)を内部で用いており、与えたツールリスト(ここでは電卓のみ)を使いこなして質問に答えるようになりますsun-asterisk.comsun-asterisk.comverbose=Trueによりエージェントの思考・行動ログが表示される設定ですpython.langchain.compython.langchain.com。※ OpenAI APIキーが無い場合: 代わりにHugging FaceのオープンモデルをLangChainで使うことも可能です。その場合、例えば HuggingFaceHub クラスや HuggingFacePipeline クラスを用いて llm を用意し、同様にinitialize_agentに渡しますhuggingface.co。ただし大規模モデルが必要になるため、OpenAIの利用を推奨します(無料枠のgpt-3.5でも十分実験可能です)。

  • エージェントに質問する: それでは、先ほどと同じ割引と値上げの問題をこのエージェントに解かせてみましょう。以下を実行してください。

python

question = "ある店舗が製品を100ドルで販売しています。20%割引した後10%値上げしました。最終価格はいくら?" response = agent.run(question) print("最終的なエージェントからの回答:", response)

実行結果の例(verboseモードの出力を含む):

makefile

> Entering new AgentExecutor chain... これは計算問題だ。観察: 製品価格100ドル, 割引20%, 値上げ10%。 次に何をすべきか? 考え: まず割引後の価格を計算し、その後値上げ後の価格を計算しよう。 行動: Calculator 行動入力: 100 * (1 - 0.2) > 出力: 80.0 観察: 割引後の価格は80ドルとわかった。 次に値上げ後の価格を計算しよう。 行動: Calculator 行動入力: 80 * (1 + 0.1) > 出力: 88.0 観察: 値上げ後の価格は88ドルとなった。 考え: 求める最終価格が判明した。 最終回答: 88ドル > Finished chain. 最終的なエージェントからの回答: 88ドル

上記ログから、エージェントが**「観察→推論→行動→観察…」**のサイクルをきちんと踏んでいることが確認できます。具体的には:

  • Thought (考え): モデルはまず問題文から「100ドルの20%オフ後に10%アップ」という状況を把握し、解法として「まず割引後、次に値上げ後を計算しよう」と計画しています。
  • Action (行動): Calculatorツールを呼び出し、式100 * (1 - 0.2)を実行。返ってきた結果が80.0であることを**Observation (観察)**しています。
  • 再び_Thought_: 観察結果を受け、「次に80ドルの10%増を計算しよう」と思考しています。
  • Action: 再度Calculatorを使い、80 * (1 + 0.1)を計算。結果88.0を観察します。
  • Thought: 最終結果が出たので回答しようと判断し、Final Answer(最終回答)を出力しています。それが「88ドル」です。 この一連の流れは、先に解説したReActフレームワークそのものですsun-asterisk.comsun-asterisk.com。モデルは自ら考え(Thought)、必要な行動を起こし(Action)、その結果を取り込んでまた考えるというループを回し、最終的な答えに到達しています。人間が見ると冗長にも思えますが、LLMに論理的手順を踏ませることで信頼性の高い回答を得ることができる好例と言えるでしょう。
  • 他の質問でも試す(任意): エージェントに別の質問を投げてみましょう。例えば、電卓が必要な質問として「15432の3乗はいくつか?」など単独のLLMではまず正確に答えられない計算を与えると、エージェントはツールを使って正確な答えを返すはずです。また、LangChainにはウェブ検索やWikipediaアクセスのツールも用意されていますので、APIキー(SerpAPIなど)を用意すれば知識質問にも対応可能です。興味があればLangChainの公式チュートリアルpython.langchain.compython.langchain.comやHugging Faceの解説記事huggingface.cohuggingface.coを参照してみてください。 実験2の結果: LLMエージェントが推論+ツール使用によって人間さながらに問題を解決する様子を確認できました。ReAct手法とLangChainの強力さを実感いただけたと思います。このようなエージェントを応用すれば、計算だけでなく情報検索や他のAPI連携まで含めた対話型システムを構築できます。では最後に、モデルの自己検証プロセスを体験してみましょう。

実験3: モデルの自己反省プロンプトを試す (目安: 1.5時間)

目的: メタ認知プロンプティングの考え方を踏まえ、モデルに自分の回答を再評価・修正させるプロンプトを試します。初回回答では誤りを含んだ回答をあえて出させ、続くプロンプトで内省させることで改善する様子を観察します。手順:

  • 誤答しやすい質問の用意: ここでは、ChatGPTですら時折間違えることがある有名なパズルを使います。「バットとボールの問題」です。

  • 問題: 「バットとボールの合計価格は1.10ドルです。バットはボールより1.00ドル高い値段です。ではボールの値段はいくらでしょうか?」
    正解は「0.05ドル(5セント)」ですが、直感に任せると「0.10ドル」と誤答しがちな難問です。

  • モデルにまず回答させる: シンプルなプロンプトでモデルにこの質問を解かせます。OpenAIのGPT-3.5を使う場合:

python

import openai prompt = "Q: バットとボールの合計は1.10ドル。バットはボールより1.00ドル高い。ボールの値段は?nA: " completion = openai.Completion.create(engine="text-davinci-003", prompt=prompt, max_tokens=100) first_answer = completion["choices"][0]["text"].strip() print("初回回答:", first_answer)

(OpenAI APIを使わない場合、先ほど準備したHugging Faceのgeneratorを用いても構いません。)
この初回回答は高確率で"0.10ドル"となるでしょう。例えばGPT-3系モデルは「0.05ドル」が正解と知ってはいるものの、質問の言い回しによっては誤答することがあります。

  • 自己反省を促す: 次に、モデルに対し自分の答えを見直すような追加質問をします。例えば:

python

followup_prompt = f"先ほどあなたは「{first_answer}」と答えましたが、その答えが正しいかよく考えてみてください。なぜその値段になるのか、手順を追って検証し、不整合があれば修正してください。n最終的な答え: " completion = openai.Completion.create(engine="text-davinci-003", prompt=followup_prompt, max_tokens=150) revised_answer = completion["choices"][0]["text"].strip() print("見直し後の回答:n", revised_answer)

出力例:

makefile

見直し後の回答: バットとボールの価格差が1.00ドルで合計が1.10ドルの場合、直感的にボールは0.10ドルと思ってしまいますが、それだとバットは1.10ドルとなり合計が1.20ドルになってしまい不整合です。式で検証すると: - ボールの値段をxドルとすると、バットはx+1.00ドル。 - 合計はx + (x+1.00) = 1.10ドル。 この方程式を解くと: 2x + 1.00 = 1.10 → 2x = 0.10 → x = 0.05。 つまりボールは0.05ドル(5セント)、バットは1.05ドルになります。これが正しい答えです。

このように、モデル自身が一度出した答えを検証し、誤りに気付いて訂正するプロセスが見られます。最初の回答「0.10ドル」は合計計算に矛盾があると指摘し、二元一次方程式で解き直して最終的に正解の0.05ドルを導き出しています。

  • 結果の考察: モデルに内省を促す追加プロンプトを与えることで、誤答が正答に改善されたことが確認できました。ポイント:
  • 最初の誤答も、モデルが全く知らないわけではなく直感に頼った早計な判断でした。人間でも陥りがちなミスですが、モデルにも同様の傾向があります。
  • フォローアップで「本当にそれで合っている?」と問い質すことで、モデルは隠れていた知識(方程式で解くスキル)を動員し、自分の解答を批判的に検証しましたnote.com
  • この一連の流れはメタ認知プロンプティングの簡易的な実践です。モデルが自己分析と自己修正を行うことで、最終的な応答の正確性と信頼性が高まりましたnote.com。 以上で実験3は終了です。様々な質問で試してみて、モデルがどのように自己評価・訂正をするか観察するのも興味深いでしょう。例えばストーリー生成後に「プロットに矛盾はないか確認して」と促すと、モデルが自ら綻びを直すケースもあります。

おわりに:学習計画のまとめと今後の展望

本計画では、生成系LLMにおける思考・推論の仕組みを理解するために重要な概念4つを学び、それらを実際にコードで試すハンズオンを行いました。チェーン・オブ・ソートによる段階的推論、ReActエージェントによるツール活用、自身の回答をチェックするメタ認知プロンプト――いずれもLLMの振る舞いを人間の思考に近づけ、より高度な問題解決を可能にするテクニックです。総学習時間の目安は約8〜10時間でしたが、理解は深まりましたでしょうか。今回触れた内容はLLMのごく一部のトピックに過ぎません。興味が湧いた方は、以下のような追加リソースも参考にさらなる探究を進めてみてください。

  • 論文・記事への参照: Chain-of-Thought提示論文www.datacamp.comやReAct提案論文react-lm.github.ioでは、ここで扱った概念の背景や詳細な評価結果が示されています。また、メタ認知プロンプティングの最新研究note.comも公開されています。
  • 実践的チュートリアル: LangChain公式ドキュメントのエージェント入門python.langchain.compython.langchain.comやHugging Faceのブログ記事huggingface.cohuggingface.coは、より大規模なオープンソースモデルを用いた高度なエージェント構築手順を解説しています(英語ですがコード例が豊富です)。
  • コミュニティリソース: 日本語ではQiitaやZennにLLMプロンプト手法を紹介する記事が多数ありますqiita.compromptpark.jp。「思考の連鎖」「ReAct プロンプト」等で検索すると事例が見つかるでしょう。 最後に、LLMは日進月歩で進化しています。本資料で得た知見を基に、ぜひご自身でもプロンプトやモデルを工夫して試行錯誤してみてください。モデルに「考えさせる」テクニックを習得することは、今後ますます重要なスキルになるはずです。10時間お疲れさまでした。この学びが皆様のLLM理解の一助となれば幸いです。Happy prompting!