地方都市の容積率緩和は「人口が増えるから床を増やす」という単純な発想ではなく、次のような“まちの生き残り戦略”として位置づけられています。
1 │国際・広域競争で負けない“舞台装置”づくり
- 国の都市再生特措法や都市再生緊急整備地域は「国際競争力の強化」を明示し、用途制限・容積率・高さ制限を大胆に緩和できる仕組みを整えています。名古屋も名駅~栄を含む都心を同地域に指定し、「より一層の民間投資を促す環境を整備します」と公表しています。www.mlit.go.jpwww.lij.jp
- 東京圏・大阪圏との企業立地合戦や国際会議(MICE)誘致、アジア競技大会2026などの大型イベント対応には、最新スペックのホテル・オフィス・ホールが不可欠。既存ストックの更新コストを吸収するために**“床の上乗せ=容積率緩和”が事業採算ラインを押し上げるインセンティブ**として機能します。oca.asia
2 │“量”より“質”重視への転換
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名古屋市が2025年4月に策定した「都市開発諸制度の運用方針」は、緩和の前提として
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公開空地や歩行者ネットワーク
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緑地・防災機能
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脱炭素・省エネ性能
など公共性の高い付加価値を義務づけ、単に床面積を増やすだけの開発は認めません。www.city.nagoya.jpwww.mlit.go.jpwww.city.nagoya.jp -
つまり「ハコを大きくする」のではなく、**“更新コストを負担できるだけの容積を与えたうえで、都市インフラや空間の質を底上げする”**という設計です。
3 │コンパクトシティ戦略とインフラ延命
- 人口減少期は郊外インフラの維持費が重荷になります。そこで公共交通結節点(名駅・伏見・栄・主要駅周辺)へ居住・業務・商業機能を集約し、周辺インフラ投資を抑制する「集約連携型まちづくりプラン」を採っています。容積率緩和はその誘導装置です。www.city.nagoya.jp
- 戦後〜高度成長期に建った中層ビルは耐震・省エネ性能が低く、建替え需要はむしろこれからピークを迎えます。緩和がないと建替え採算が合わず「老朽化放置→まち全体の競争力低下」という悪循環に陥るため、規制緩和で再投資を呼び込む必要があります。
4 │経済と雇用のショック吸収装置
- 建設投資は地元の裾野が広く、人口減少で縮む内需を部分的に補完します。市は「まちへの貢献」「地域課題の解決」などを評価指標にしており、景気対策と都市課題解決を同時に狙う公共政策になっています。www.city.nagoya.jp
5 │人口減少と容積率緩和は矛盾しない
名古屋市の将来人口推計では 2023年ごろをピークに減少局面へ入り、2040年には生産年齢人口が約15%減ると見込まれています。www.city.nagoya.jpwww.city.nagoya.jp
しかし
- **「都市の絶対的需要」ではなく「都市間シェア争い」**が激化する
- 老朽ビルの更新と高機能化で床の“質的需要”はむしろ増える
という構造変化があるため、容積率緩和は「人口が減るのにハコだけ大きい」矛盾ではなく、**縮みゆく時代に都市機能を保ち、税収と雇用を確保し、持続可能にするための“再配分装置”**と捉えられます。
まとめ
人口が減る=床需要が減る ではなく
人口が減る=限られた需要を奪い合う & 老朽ストックの更新費用を回収しにくい
だからこそ「容積率緩和」で
- 高機能ストックへの建替えを採算ラインに乗せ
- 公共空間・防災・脱炭素など都市課題を同時解決し
- 交通結節点に機能を集約してインフラコストを抑える ― これが名古屋が今“より大きなハコ”を許容する本当の理由です。