学術論文の音声概要作成における法的リスク

以下はあくまで一般的な情報提供であり、法的アドバイスではありません。具体的な案件については、専門の弁護士にご相談ください。


1. 著作権の観点

1-1 要点

  • 単なる要約自体は通常「アイデアの紹介」にとどまり、著作権で保護される“表現”を複製していない限り侵害になりにくい ─ これは米国のフェアユース枠組みでも、タイの「正当目的(fair dealing)」でも同様の考え方が採られています。librarycopyright.netwww.tilleke.com
  • 全文朗読や大量引用を音声化した場合は「重要な表現の再頒布」と見なされ、著作権者の許可が必要になるリスクが高いです。

1-2 フェアユース/フェアディーリング四要素(ざっくり)

要素リスクが低い場合リスクが高い場合
①目的・性質批評・教育・研究・非営利・高度に変容的営利色が強い/元と同じ用途
②原作品の性質事実中心、公開済みクリエイティブで未公開
③使用量ごく短い引用・パラフレーズ大量引用・全文朗読
④市場影響原作の販売・ライセンス市場を置き換えない競合し得る代替物を提供

音声概要が「①変容的」「③引用が最小限」「④市場を奪わない」なら、フェアユース(米)または正当目的(タイ)に該当する可能性が高まります。en.wikipedia.orgwww.thailawforum.com


2. 派生著作物(Derivative Work)か?

  • 要約パラフレーズは米国法上ふつう派生著作物ではなく、著作者の独占権を侵害しません(ただし大量引用は別)。foundrylawgroup.com
  • 反対に、原文を大幅に引用しながら BGM を付けただけ…という場合は「変容性」が弱く、派生著作物として許諾が要る可能性があります。

3. モラルライツ(同一性保持)

タイ著作権法 §18 等には「名誉・声望を害する改変の禁止」が規定されています。学術論文の結論を曲解したり、著者名を伏せたりすると、人格権侵害のリスクが残ります。www.thailandlawonline.com


4. 二次的契約・サイト規約

  • NotebookLM の利用規約や、論文を取得したデータベース(arXiv、出版社サイト等)の TOS が「機械学習・再配布」を禁じていないか確認を。
  • Twitter/X は DMCA テイクダウン要請に応じます。もし著作権者が不満を抱けば、URL 付きポストが削除される恐れがあることも認識しておきましょう。

5. 実務的チェックリスト

  • 引用は最小限に:キーメッセージを自分の言葉で説明し、具体的な数式や長文の直接朗読は避ける。
  • 出典を明示:論文タイトル・著者・発行年・DOI を音声内またはツイート本文に記載。
  • 変容性を高める:単純朗読でなく、解説や批評・別の視点を加える。
  • 営利利用なら慎重に:広告収入が絡むポッドキャストなどは、著作者への影響評価を丁寧に。
  • 著者のポリシーを確認:オープンアクセス(CC-BY など)なら引用条件を満たす形で自由度が高い。
  • 万一のクレーム対応フローを用意:DMCA 解除手続きや、正当性を説明できるメモを残しておく。

6. まとめ

  • 純粋な“概要音声”で、引用が限定的かつ変容的であれば、著作権上のリスクは比較的低い
  • もっとも、国ごとに例外の適用範囲は揺れますし、モラルライツや契約上の制限には引っ掛かる余地があります。
  • 学術コミュニティとの信頼関係や著者クレジットを丁寧に扱うことが、実務トラブルを減らす最短ルートです。

⚖️ ワンポイント
「あなたの要約が“元論文を読まなくても済む代替物”になっていないか?」を自問すると、フェアユースの境界線を判断しやすくなります。