日本で2013年6月に「積極的勧奨」を差し控えたことによる主な影響は、以下のとおりです。
1. 接種率の激減とその結果としての感染リスクの上昇
- 積極的勧奨中止前には70%前後だった13~16歳女子のHPVワクチン接種率が、中止後の世代では1%以下に激減しました kanagawacc.jptokuteikenshin-hokensidou.jp。
- これに伴い、Niigata studyでは2014~2020年度の20~21歳女性における高リスク型HPV16/18型の感染率が、ワクチン普及前の1.3%から再び1.7%へ上昇し、ワクチン導入前世代と同水準に戻ったことが確認されています tokuteikenshin-hokensidou.jp。
2. 子宮頸がん検診における異常率の上昇
- 大阪大学の調査では、2000年度生まれの「停止世代」女性(ワクチン接種率10.2%)の20歳時検診における細胞診異常率は5.04%で、接種世代(1994~1999年度生まれ)の約3.5%に比べ明らかに高くなっていました resou.osaka-u.ac.jp。
- 異常率の上昇は、接種機会を逸したことによるHPV感染増加が背景にあると考えられます。
3. 将来の子宮頸がん罹患・死亡の増加予測
- 2000~2003年度生まれの女子では、積極的勧奨中止の影響で将来の罹患者増加は約17,000人、死亡者増加は約4,000人に上ると推計されました resou.osaka-u.ac.jp。
- さらに2004年度生まれ女子では、2020年度中に回復がなければ罹患者4,387人・死亡1,086人の超過が確定し、1日あたり12人の新規罹患・3人の死亡が「確定」していく計算です resou.osaka-u.ac.jp。
4. がん患者数・死亡者数の増加と公衆衛生負担
- 日本では子宮頸がんの罹患数が2000年以降増加傾向にあり、2018年に10,978人が診断、2019年に2,921人が死亡しています(他の先進国とは対照的) kanagawacc.jp。
- 接種率低下による一次予防機会の喪失は、治療コストや社会的負担の増大、将来的な医療資源の逼迫を招く恐れがあります。
5. 社会的信頼の低下とキャッチアップ接種の課題
- 母親世代の多くが安全性に懸念を抱き、政府が勧奨再開を表明しただけでは約20%しか娘に接種させない意向でした kanagawacc.jp。
- しかし教育的リーフレットの配布で、対象自治体(夷隅市)では累積接種率が10.1%まで上昇した例もあり、情報発信の強化が不可欠です kanagawacc.jp。
対策の方向性
- 2022年4月からは厚生労働省が積極的勧奨を再開し、キャッチアップ接種も開始されています tokuteikenshin-hokensidou.jp。
- しかし、「停止世代」へのワクチン接種機会の提供とともに、子宮頸がん検診受診率向上策の両輪を強化しない限り、既に確定した罹患・死亡数の増加を食い止めることは難しい状況です。 以上より、日本での積極的勧奨中止はワクチン接種率の激減を通じてHPV感染率・前がん病変の増加を招き、将来的に数万人規模の子宮頸がん罹患・死亡を増やす重大な公衆衛生上の影響を及ぼしています。キャッチアップ接種や検診強化など、早急かつ包括的な対策が求められます。